工期遅延の損害金・責任上限・保険

遅延損害金は計算できる一つの式で、責任の上限は何に及び何を除くかまで書きます。

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「遅延日数1日につき請負代金残額の年10%」。日割と年率が混在すると、遅延損害金だけで請負代金を超える読み方が出てきます。

このページの要点

  • 計算の基礎・率・日数の数え方を一つの式で書く。基礎から差し引くのは、引渡しが完了した部分に限る。
  • 請負人の責めに帰さない事由による工期の延長と、その期間は遅延損害金が生じないことを定める。
  • 上限条項は、請求原因・遅延損害金・間接損害・故意重過失・人身損害の扱いまで書く。消費者向けは軽過失への限定を明示する。
  • 保険は加入している種類と限度額を記入し、入っていなければ「なし」と書く。限度額は想定される第三者損害に合わせる。

結論:遅延損害金は「計算できる式」で、上限は「何に及ぶか」まで書く

工期の遅れに対する損害金、請負人の賠償責任の上限、工事保険の三つは、工事の請負契約で金額が最も大きく動く条項です。建設業法19条1項14号は、各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金を記載事項としています。遅延損害金の条項がない契約書は14号の記載を欠きますし、あっても計算できない書き方であれば、揉めたときに当事者がそれぞれ自分に都合のよい読み方を主張することになります。

事務所が見てきた草案では、遅延損害金の計算式に日割と年率が混在していて計算できない、計算の基礎になる「請負代金残額」が定義されていない、賠償の上限が遅延損害金や不法行為に及ぶのかが分からない、という問題が繰り返し出てきました。このページでは、遅延損害金の正しい書き方、注文者と請負人の遅延の書き分け、責任上限の条項、保険の条項を、事務所の改訂例とともに整理します。注文者の支払遅延の損害金と催告は代金の支払設計でも扱っています。

遅延損害金:日割と年率が混在すると、請負代金を超える額が出る

改修工事の草案に、「乙の責めに帰すべき事由により工期内に工事を完成できないときは、遅延日数1日につき請負代金残額の年10.0%の割合による遅延損害金を支払う」という条項がありました。「1日につき」と「年10.0%」が同じ文に入っているため、どう計算するのかが決まりません。文言どおり「1日につき残額の10%」と読めば、残額が1,000万円の工事で30日遅れると、100万円×30日で3,000万円になり、遅延損害金だけで請負代金を大きく超えかねません。注文者はこの読み方を主張し、請負人は「年10%を日割りする趣旨だ」と反論する、という争いになります。

もう一つの問題が「請負代金残額」です。未払いの代金の額なのか、出来高を差し引いた未施工部分の額なのか、それとも請負代金の全額なのかが定義されていません。前払を受けていればその分を引いた額、出来高があればその分を引いた額、と読み方次第で基礎が大きく変わり、注文者は最も大きい額を主張するでしょう。

REV.事務所の改訂例 遅延損害金の条項

1計算式

改訂前遅延日数1日につき請負代金残額の年10.0%の割合による遅延損害金を支払う。
改訂後(請負代金額-引渡しの完了した引渡部分に相応する代金額)×年10%×遅延日数(暦日)÷365 により算定した額を遅延損害金として支払う。

理由日割と年率の混在を解消し、一つの式で計算できるようにする。

2計算の基礎

改訂前請負代金残額(定義なし)
改訂後請負代金額から、部分引渡しにより引渡しが完了した部分に相応する代金額を控除した額。

理由基礎から「出来形部分」の額を控除すると、工事の終盤には基礎がほぼゼロになり損害金として機能しない。控除するのは引渡しを完了した部分に限る。

3上限との関係

改訂前(定めなし)
改訂後甲は、乙の故意又は重大な過失による場合を除き、遅延損害金を超える損害の賠償を請求することができない。

理由遅延損害金が損害の予定として働くことを明らかにし、別途の損害賠償請求との二重取りを防ぐ。

控除の対象を「引渡しを完了した部分」に限った理由は、表の理由欄のとおりです。出来形(工事の進み具合に応じてできあがった部分)を基礎から差し引く書き方は一見公平ですが、完成間近の工事では出来形がほぼ100%に近づくため、遅延損害金の基礎がほとんどなくなります。注文者の立場から見ても、工期遅延の損害金として意味がなくなってしまうので、合意を得にくい書き方です。部分引渡しの仕組みと組み合わせ、すでに注文者が使い始めた部分だけを除く、という整理にしています(検査・引渡し・竣工払)。

遅延損害金の条項とセットで書いておきたいのが、工期の延長の条項です。請負人の責めに帰することができない事由で工期内に完成できない場合、たとえば注文者の申出による変更や中止、追加変更工事、既存部分の相違の判明、不可抗力、注文者による支給材料の遅れ、注文者の検査の遅れなどがあったときは、請負人は工期の延長を求めることができ、その期間については遅延損害金が発生しない、と明記しておきます。この条項がないと、工期の遅れの原因がどちらにあるかを、遅延損害金を請求された段階で一から争うことになります。

条文例

第○条(工期の延長)

  1. 乙は、次の各号に掲げる事由により工期内に工事を完成することができないときは、その理由を示して甲に工期の延長を求めることができる。(1)甲の申出による工事内容の変更、着手の延期又は工事の中止(2)追加変更工事(3)第○条(既存部分の相違等)に定める事実の判明(4)不可抗力(5)甲が供する材料の引渡しの遅れ又は甲の検査の遅れ(6)その他乙の責めに帰することができない事由
  2. 前項の延長の期間は甲乙協議して定める。協議が整わないときは、前項各号の事由により工事の施工に支障が生じた日数を延長の期間とする。
  3. 前二項により延長された期間については、乙は遅延損害金を支払う義務を負わない。

注文者の遅延と請負人の遅延を書き分ける

書き分けの前に、工期の遅れが見込まれた段階での連絡の手順も決めておくと、後の計算が楽になります。請負人は、工期内に完成できないおそれが生じたときは、理由と見込みの日数を遅滞なく書面又は到達を確認できるメールで注文者に知らせる、注文者はその理由が延長の事由に当たるかどうかについて一定期間内に意見を述べる、という流れです。延長の事由に当たるかどうかを工事の途中で一つずつ確かめておけば、完成後にまとめて遅延日数を争う事態を避けられます。注文者にとっても、テナントの入居日や営業の開始日を早めに調整できる利点があります。連絡を口頭で済ませていると、延長を求めた事実そのものを示すことが難しくなります。

14号は「各当事者の」遅延利息・損害金を求めているので、注文者の支払遅延と、請負人の工期遅延の両方を書きます。率を同じにするかどうかは交渉ですが、計算の基礎は性質に合わせて変えるのが自然です。注文者の支払遅延は未払額を基礎に、請負人の工期遅延は未施工部分(又は引渡し未了部分)を基礎にします。

遅延損害金の書き分けの例

場面計算の基礎率と注意点
注文者の支払遅延(事業者向け)未払額当事者の合意による。催告の有無を問わず期日の翌日から発生させる
注文者の支払遅延(消費者向け)未払額年14.6%を超える部分は無効(消費者契約法9条1項2号)
請負人の工期遅延(改修工事の改訂例)請負代金額-引渡し完了部分の代金額年10%を暦日で日割り。故意・重過失の場合を除き、これを超える請求をしない
請負人の工期遅延(墓石の改訂例)請負代金額-出来形部分に相応する額消費者向けの契約で、請負代金全額を基礎とする当初の約款を改めた

墓石の建立工事のインターネット上の雛形をもとにした当初の約款では、請負人の納品遅延の違約金を、請負代金の全額を基礎に年14.6%と定めていました。工事が進んで出来形があっても全額を基礎にする形で、そのうえ請負人の賠償額には上限がありませんでした。事務所の新しい契約書では、注文者の遅延は未払額を基礎に年14.6%、請負人の遅延は出来形相当額を差し引いた額を基礎とし、請負人の賠償の総額は請負代金額を上限としました。

遅延損害金の条項を書くときは、それが「損害賠償の額の予定」なのか、実際の損害がそれを上回れば追加で請求できる「最低限の額」なのかも、はっきりさせておきます。民法420条1項は当事者が債務不履行について損害賠償の額を予定できるとし、同条3項は違約金を賠償額の予定と推定しています。予定とする趣旨なら、改訂例のように「これを超える損害の賠償を請求することができない」と書き、故意・重大な過失の場合だけを例外にします。注文者の立場で、テナントの入居の遅れによる賃料の減収のように遅延損害金を大きく上回る損害が見込まれるなら、予定ではなく別途の賠償を妨げないと書くか、率そのものを見直すことになります。どちらの立場でも、書かないまま放置すると、遅延損害金に加えて実損の賠償を請求されるのか、遅延損害金で打ち止めなのかという争いが残ります。

責任上限の条項:何に及ぶのか、何を除くのか

請負人の賠償責任に上限を設ける条項は、事業者どうしの契約では一般的です。ただ、「乙の賠償責任は請負代金額を上限とする(故意又は重大な過失による場合を除く)」とだけ書くと、いくつかの疑問が残ります。遅延損害金はこの上限の内側か外側か。逸失利益やテナントへの補償のような間接的な損害は含むのか。契約に基づく請求だけでなく、不法行為を理由とする請求にも上限が及ぶのか。そもそも、契約の当事者でない第三者(近隣住民や階下のテナント)からの請求には、当事者間の上限条項は及びません。

条文例

第○条(損害賠償の範囲及び上限)

  1. 乙が本契約に関して甲に対して負う損害賠償責任は、債務不履行、契約不適合責任、不法行為その他請求原因のいかんを問わず、通常かつ直接の損害に限るものとし、遅延損害金を含めて請負代金額の合計額を上限とする。
  2. 前項の損害には、逸失利益、営業損害、甲がテナントその他の第三者に支払った補償金その他の間接的な損害を含まない。ただし、第○条(第三者損害)により乙が負担するものについては、この限りでない。
  3. 前二項の規定は、乙の故意又は重大な過失による場合及び人の生命又は身体を害した場合には適用しない。

人の生命・身体の侵害を上限の対象から外すのは、人身損害にまで上限を残すと条項全体の効力を争われる火種になるためです。

上限の額をどこに置くかも検討が要ります。請負代金の合計額を上限にするのが一つの目安ですが、上限を「現に受領した代金の額」とする書き方は、とくに全額を竣工時に受け取る工事では避けたほうが安全です。引渡しの前に事故が起きれば受領済みの代金はゼロに近く、上限条項が実質的に責任を全部免れる条項として機能してしまうため、条項の効力そのものを争われる典型になるからです。損害の種類によって上限を使い分ける方法もあります。たとえば、工事の通常の不具合は請負代金額を上限とする一方、注文者の秘密情報(他の取引先との単価や原価など)の漏えいは秘密保持の条項で上限を設けない、といった形です。上限を一律にするより、損害の性質ごとに当事者が受け入れやすい線を引くほうが、交渉もまとまりやすくなります。

注文者が消費者の場合は、さらに制約があります。消費者契約法8条1項は、事業者の債務不履行や不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項や、故意又は重大な過失による場合まで一部を免除する条項を無効とし、同条3項は、責任の一部を免除する条項であって、軽過失の場合にのみ適用されることを明らかにしていないものを無効としています。消費者向けの上限条項では、「乙の故意又は重大な過失による場合を除き」という限定を条文の中で明示しておかなければ、上限条項そのものが無効になります。責任の上限を「契約金額の10%」のように低く定め、軽過失への限定も置かない書き方は、同条3項に加えて消費者契約法10条との関係でも効力を争われるおそれが大きいと考えられます。

上限条項と第三者損害の条項の関係も整理しておきます。改訂例の上限条項は、注文者がテナントなどに支払った補償金を間接損害として上限の外に置きつつ、第三者損害の条項で請負人が負担すると定めたものはこの限りでない、としています。請負人の過失による漏水で階下のテナントに損害が出た場合のように、第三者損害の条項で請負人の負担と決めたものまで上限条項で切り捨てると、二つの条項が矛盾するからです。どの損害がどの条項で処理されるのかを、条文の相互の引用で明らかにしておきます。

保険の条項:入っていない保険を約束しない

工事の契約書で保険を扱うときに大切なのは、実際に加入している保険と契約書の記載を一致させることです。「乙は工事保険その他必要な保険に加入する」と抽象的に書くと、事故が起きたときに「なぜその種類の保険に入っていなかったのか」と債務不履行を主張される余地が生まれます。改訂例では、乙が加入している保険の種類と限度額を記入する欄を設け、加入していない場合は「なし」と記載する形にしました。付保していない保険を約束しない、という考え方です。

保険の限度額を、責任上限の額に合わせて決める必要はありません。想定すべきは、その工事で起こり得る第三者への損害の規模です。たとえば集合住宅やテナントビルの改修では、漏水によって階下のテナントの営業が止まり、営業損害の請求を受ける事態が考えられます。また、工事に通常伴う騒音や振動による近隣の損害は、賠償責任保険の対象外とされることが多い点にも注意が要ります。こうした損害の負担は、保険ではなく契約の第三者損害の条項で注文者と請負人の間の分担を決めることになります(第三者損害・近隣・テナント・石綿・廃棄物)。

協力会社に求める保険の種類(発注する側の契約書の例)

保険主に対象とする事故注意点
請負業者賠償責任保険工事の作業中に第三者の身体や財物に与えた損害完了後に生じた事故は対象外のことが多い
生産物賠償責任保険工事の完了後に、施工の不良が原因で生じた事故請負業者賠償とセットで確認する
受託物賠償責任保険預かった鍵や貸与物の紛失・損傷管理会社から鍵を預かる業務では重要
上乗せの補償上記の限度額を超える損害工事の規模に応じて限度額を設定する

保険の種類と金額は基本契約に固定せず、個別契約ごとに定め、付保を証明する書類の提出を求めることができる形にしておくと、工事の規模に合わせやすくなります。

保険金の扱いも決めておきます。改訂例では、不可抗力による損害で注文者が負担すべき額があるときは、請負人が受け取った保険金をまずその額に充当する、と定めました。保険金と注文者の負担の二重取りを防ぎ、注文者の理解も得やすくするための一文です(不可抗力・価格変動・工事の中止)。

ご相談と回答 遅延と上限

遅延損害金の条文の正しい書き方を教えてください。

計算の基礎(何から何を引いた額か)、率(年率か日率か一方に統一)、日数の数え方(暦日か営業日か)を一つの式で書きます。基礎から出来形を引くと終盤にほぼゼロになるので、引くのは引渡しが完了した部分に限るのが一案です。

損害賠償の上限は請負代金額でよいですか。

事業者どうしなら一つの目安です。あわせて、遅延損害金を上限に含むか、請求原因を問わないか、間接損害を除くか、故意・重過失と人身損害を除くかを書いておきます。消費者向けでは、軽過失の場合にのみ適用されることを条文で明示しないと無効になります。

どの保険に入っておくべきですか。

工事中の事故の請負業者賠償、完了後の事故の生産物賠償、鍵や貸与物の受託物賠償が基本です。限度額は上限条項ではなく、その工事で想定される第三者損害の規模に合わせます。契約書には加入している保険だけを記載します。

ヒヤリングで確かめること

ヒヤリング点検表 遅延・上限・保険

  1. 工期が遅れたとき、注文者側にどのような損害が生じ得るか(テナントの入居遅れ、営業開始の遅れなど)。遅延損害金の率と、間接損害を除外する必要性を判断する。
  2. 部分引渡しはあるか。遅延損害金の基礎から控除する額の定め方が決まる。
  3. 注文者は事業者か消費者か。上限条項の書き方(軽過失への限定の明示)と率の上限が変わる。
  4. 加入している賠償責任保険の種類と限度額は。契約書の保険欄に実際の内容を記入する。
  5. 漏水や騒音で第三者に損害が出るおそれの大きい現場か。保険の限度額と、第三者損害の条項の分担を決める。
  6. 協力会社に保険の加入を求めているか。証明書を受け取っているか。個別契約で保険を定め、付保の証明を求める条項を置く。

起きがちなこと:計算できない式と、範囲の分からない上限

よくあるご質問

工期遅延の遅延損害金は、どう書けばよいですか?

計算の基礎・率・日数の数え方を一つの式で書きます。たとえば「(請負代金額-引渡しの完了した部分の代金額)×年10%×遅延日数(暦日)÷365」です。「1日につき残額の年10%」のように日割と年率を混在させると、計算できず争いになります。

遅延損害金の基礎から出来形を差し引くのは公平ではありませんか?

一見公平ですが、完成間近の工事では出来形がほぼ100%になるため、基礎がほとんどなくなり、損害金として機能しません。注文者の合意も得にくくなります。差し引くのを、部分引渡しで引渡しが完了した部分に限る整理が実務的です。

損害賠償の上限を請負代金額にしておけば十分ですか?

上限の額だけでなく、遅延損害金を含むか、請求原因を問わないか、逸失利益などの間接損害を除くか、故意・重過失と人身損害を除くかまで書く必要があります。契約の当事者でない第三者からの請求には、当事者間の上限条項は及びません。

消費者向けの契約で、賠償の上限を定められますか?

全部免除や、故意・重過失の場合まで一部免除する条項は無効です(消費者契約法8条1項)。一部免除の条項は、軽過失の場合にのみ適用されることを明らかにしていなければ無効になります(同条3項)。上限条項には「故意又は重大な過失による場合を除き」と明示します。

工事の契約書に保険のことはどう書けばよいですか?

加入している保険の種類と限度額を記入し、加入していなければ「なし」と記載する形にして、入っていない保険を約束しないようにします。限度額は上限条項ではなく、漏水による階下の営業損害など、その工事で想定される第三者損害の規模に合わせます。

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