このページの要点
- 名宛人が元請自身の義務は移らない。協力会社には、元請の義務の履行に必要な協力と、帰責事由がある場合の補償を求める。
- 一括下請負の承諾を得るべき「発注者」は、他から請け負ったものを除く注文者。取引ルートで廃棄物・石綿の元請業者も入れ替わる。
- 下請契約にも19条の書面が要る。建設工事の再委託は取適法の役務提供委託から除かれるが、フリーランス法には除外がない。
- 一人親方に示す指示は仕様・品質・安全・窓口に限り、方法・手順・時間配分は職人の裁量と明記する。
結論:元請の法定責任は契約で移らない。移せるのは民事上の負担だけ
工事を請け負った事業者が、その一部や全部を協力会社や個人の職人(一人親方)に任せることは、建設工事では日常的です。協力会社向けの基本契約書や、一人親方との工事請負契約書を作るときに、まず押さえておきたいのは、法律が元請に課している義務は、契約書に何と書いても協力会社に移らない、ということです。
建物の管理会社から示された協力会社向けの基本契約書の原案では、建設業法、労働安全衛生法、廃棄物処理法、個人情報保護法などで元請に課される義務を、「乙(協力会社)は関係法令を遵守する」という一条で処理していました。しかし、法律の名宛人が元請自身である義務は、協力会社に法令遵守を約束させても元請の義務のままです。契約で移せるのは、協力会社の側の原因で元請が負担した損害を協力会社に求償する、という民事上の負担だけです。
このページでは、元請に残る義務の一覧、求償の条項の書き方、一括下請負の禁止と取引ルートによる名宛人の入れ替わり、下請契約に及ぶ19条の書面と支払のルール、一人親方との契約で注意したい指示の範囲、再委託・安全・補償・直接取引の条項を整理します。廃棄物や石綿の義務の中身は第三者損害・近隣・テナント・石綿・廃棄物、施工管理を外部に頼む契約は施工管理の業務委託契約書で扱います。
元請に残る義務と、求償の条項の書き方
協力会社に移らない主な義務(元請の立場で負うもの)
| 法律 | 元請の義務の例 | 名宛人 |
|---|---|---|
| 建設業法 | 下請契約の書面(19条)、一括下請負の禁止(22条1項)、下請代金の支払(24条の3)、完成通知からの検査(24条の4)、主任技術者の設置(26条) | 19条は契約の当事者、22条1項・26条は建設業者、24条の3・24条の4は元請負人 |
| 廃棄物処理法 | 建設工事に伴う廃棄物の排出事業者としての処理の責任(21条の3第1項) | 注文者から直接請け負った建設業を営む者 |
| 大気汚染防止法 | 石綿の事前調査と発注者への書面による説明(18条の15第1項) | 発注者から直接請け負った元請業者 |
| 労働安全衛生法 | 関係請負人への指導・是正の指示(29条)、建設業などの特定元方事業者としての協議組織・巡視などの措置(30条) | 元方事業者(30条は特定元方事業者) |
名宛人は許可の有無や取引の形で入れ替わります。許可を受けていない事業者は、建設業法の「建設業者」「元請負人」には当たらない一方、廃棄物処理法・大気汚染防止法の元請業者には当たり得ます。
求償の条項も、書き方次第で機能しなくなります。原案では「乙は、乙の責任の範囲に応じて、甲に生じた合理的な損害を賠償する」となっていました。この書き方では、協力会社に「その額は合理的ではない」「責任は一部にすぎない」と争う足場を与えてしまいます。改訂では、協力会社又はその再委託先の責めに帰すべき事由による事故や請求について、元請が負担した賠償額、是正の費用、対応の費用を補償する、と費目を特定しました。一方で、協力会社に無過失の補償まで負わせることはしていません。帰責事由を要件から外すと、協力会社に落ち度がないのに負担を押し付けることになり、取引上の地位の濫用と評価される危険と自己矛盾するからです。
REV.事務所の改訂例 協力会社向け基本契約の改訂
1法令遵守の条項
理由名宛人が元請自身の義務は契約で移らない。協力会社に求めるのは、元請の義務の履行に必要な協力に置き換える。
2求償の条項
理由「合理的」「責任の範囲に応じて」は争いの足場になる。費目を特定し、帰責事由の要件は維持する。
3指示の範囲
理由包括的な「指示に従う」は、個人の職人との契約では指揮命令の徴表になり得る。
一括下請負の禁止と、取引ルートによる名宛人の入れ替わり
建設業法22条1項は、建設業者が請け負った建設工事を、いかなる方法をもってするかを問わず一括して他人に請け負わせることを禁じ、同条2項は、建設業を営む者が建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負うことを禁じています。元請が施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理、技術的な指導などに実質的に関与していなければ、契約の形式にかかわらず一括下請負と評価されるというのが国土交通省の考え方です。
例外として、共同住宅を新築する建設工事以外の工事であれば、元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、一括下請負の禁止は適用されません(22条3項、建設業法施行令6条の4)。ここでいう「発注者」は、建設工事(他の者から請け負ったものを除く)の注文者です(2条5項)。管理会社が建物の所有者から工事を請け負い、それを協力会社に出している場合、承諾を得るべき発注者は管理会社ではなく建物の所有者になります。
建物の管理会社の取引では、同じ協力会社への発注でも、取引のルートによって元請業者が誰になるかが変わります。この入れ替わりを図にすると、次のようになります。
取引ルートと元請業者の入れ替わり(建物管理の例)
- ルートA:建物の所有者・管理組合自社に直接、修繕や原状回復を発注する。
- 自社(管理会社)注文者から直接請け負っているので、廃棄物処理法・大気汚染防止法の「元請業者」は自社。協力会社に出すときの廃棄物・石綿の義務は自社に残る。
- 協力会社自社の下請負人。自ら廃棄物を運ぶには書面の請負契約での定めなどの要件が要る。
ルートB(所有者→他の業者→自社→協力会社)のように間に別の業者が入ると、注文者から直接請け負っているのはその業者なので、元請業者は原則としてその業者になり、自社は下請負人の立場に立ちます。同じ協力会社への同じ種類の発注でも、ルートによって自社の義務の範囲が変わるため、個別契約にルートの別を書いておくと整理しやすくなります。
許可を受けていない事業者が元請の立場に立つ場合、22条1項は「建設業者」を主語としているので直接の名宛人にはなりませんが、建設業者から一括して請け負う側の22条2項は「建設業を営む者」を主語としているので、許可の有無を問わず及びます。協力会社に工事を出すときに、再委託を承諾した工事では、甲(元請)が施工計画の確認、工程の管理、完了時の品質の確認で実質的に関与し、乙(協力会社)は施工計画書・工程表・作業者名簿を提出する、という手順を基本契約に書いておくと、関与の記録が残ります。
下請契約に及ぶ19条の書面と、支払のルール
建設業法19条1項は建設工事の請負契約の当事者すべてに及ぶので、元請と協力会社、協力会社と一人親方の間の下請契約にも、16の事項を記載した書面の相互交付が求められます。チャットやメールでの発注は、19条3項の措置として国土交通省令(建設業法施行規則13条の4第2項)の技術的基準を満たす方法でなければ書面に代わりません(追加・変更工事の書面)。一人親方との契約は短い書式で済ませがちですが、19条1項の6号から9号、11号の検査の時期なども、元請と協力会社の契約と同じように記載が求められます(建設業法19条の記載事項)。
下請代金の支払については、元請負人(下請契約の注文者で建設業者であるもの)が出来形部分に対する支払や完成後の支払を受けたときは、下請負人に、その出来形に相応する下請代金を、支払を受けた日から1か月以内で、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければなりません(24条の3第1項)。元請負人は、完成の通知を受けた日から20日以内で、かつ、できる限り短い期間内に検査を完了しなければならず(24条の4第1項)、特定建設業者が注文者となった一定の下請契約では、引渡しの申出の日から50日以内の支払期日を定めなければなりません(24条の6第1項)。
中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月1日に下請代金支払遅延等防止法から改称)は、建設業を営む者が請け負う建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせることを、「役務提供委託」の定義から除いています(同法2条4項)。建設工事の再委託は建設業法の規律に委ねられているということです。これに対して、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)には建設工事を除く規定がなく、従業員を使用しない個人の職人に、従業員を使用する事業者(法人の場合は、二以上の役員がいるか従業員を使用する法人)が工事を委託する場合は、報酬の支払期日を給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に定めることなどが求められます(同法4条1項)。
条文例
第○条(代金の支払)
- 個別契約に支払期日の定めがないときは、甲は、毎月末日までに完了した工事の代金を、翌月末日又は工事の目的物の引渡しを受けた日から60日を経過する日のいずれか早い日までに支払う。
- 締日は毎月末日とし、甲は個別契約の締結後にこれを変更しない。
- 甲が乙に対して有する債権と乙の代金債権を相殺するときは、相殺の対象とする甲の債権を乙の債務不履行又は不法行為に基づくものに限り、あらかじめその内容と額を書面等で乙に通知し、乙に異議を述べる機会を与える。
「月末締め翌月末払」だけだと、月初に完了した工事では支払まで最長で61日になり得るため、60日の到来で繰り上げる一文を加えています。相殺は「法令上許される範囲で」と留保するだけでは機能しないので、対象と手順を書きます。
一人親方との契約:指示の範囲と、契約の名前より実態
個人の職人との契約で最も注意したいのは、契約書の文言が、職人を元請の指揮命令の下で働く労働者のように描いてしまうことです。「甲の指示に従い業務を行う」「甲が通知した注意事項を遵守する」「作業時間は甲が定める」といった文言は、指揮命令の徴表と受け取られ得ます。労働者に当たるかどうかは、契約の名前ではなく実態で判断され、仕事の依頼を断れるか、工法や作業の手順を自分で選べるか、作業時間を自分で決められるか、他社の仕事を受けることを禁じられていないか、報酬が仕事の出来高で決まるか、道具を自分で持ち込むか、といった事情が総合的に見られます。
契約書に「本契約の名称にかかわらず、実態に応じて関係法令に従う」というただし書を置いた例もありましたが、これは防御になりません。かえって「労働者に当たり得ることを認識していた」と読まれるおそれがあります。また、建設業務については労働者派遣事業が禁止されているので(労働者派遣法4条1項2号)、職人を元請の指揮命令の下で働かせたいからといって、派遣契約に切り替えて適法にする道もありません。改訂では、元請が示せることを仕様・品質の基準・安全上の注意と管理規則・疑義の判断・窓口の一本化に限り、具体的な方法・手順・時間配分は職人の裁量と明記しました。
ここには、もう一つの緊張関係があります。一括下請負と評価されないためには、元請が施工計画・工程・品質・安全に実質的に関与することが求められる一方で、個人の職人との関係では、指示が細かくなるほど労働者性の評価に近づきます。協力会社への発注の実務について「現場で作業の方法を逐一指示することは原則ない」という回答を受けた案件では、一括下請負の観点からは関与が薄いと見られるおそれがあるため、施工前の安全確認と完了時の品質確認を記録に残すことを提案しました。作業の方法そのものには立ち入らず、着手前と完了時の確認で関与の実質を示す、という整理です。
相手方の属性の確認も、契約書の書き分けに直結します。協力会社が従業員を使用しない個人であればフリーランス法の対象になり得ますし、元請の側が従業員を一人も使用していなければ、同法の特定業務委託事業者に当たらず、期日の規律などが法律上は及ばない場面もあります。インボイス制度との関係では、協力会社に適格請求書発行事業者の登録の有無を通知してもらい、登録のない事業者であることを理由に一方的に代金を減額しない、という定めも置きました。
再委託・安全・不当に低い代金・直接取引
協力会社がさらに別の業者に再委託する場合は、事前の承諾制にし、協力会社が許可を要する規模の工事を再委託するときは再委託先の許可を確認すること、協力会社自身が許可を要する規模の工事を請け負うときは許可を受けていることを表明保証すること、を基本契約に書いておきます。元請が労働安全衛生法29条・30条の措置を講じる必要があるときは、協力会社は作業計画や作業者名簿の提出、協議への参加、巡視への立会い、元請の是正の指示に従うことで協力します。安衛法29条3項は、元方事業者の是正の指示を受けた関係請負人やその作業従事者がその指示に従わなければならないと定めています。同時に、安衛法3条3項は、建設工事の注文者その他の仕事を他人に請け負わせる者に、施工方法、作業方法、工期などについて、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮することを求めています。
代金の水準にも規律があります。建設業法19条の3第1項は、注文者が自己の取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結することを禁じ、令和6年の改正で加わった同条2項は、建設業者が、正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額で請け負うことを禁じています。発注する側も受注する側も、原価割れの契約は避けなければなりません。
協力会社や職人が、元請を通じて知り合った元請先や施主と直接取引をすることを禁じる条項もよく置かれます。管理会社の基本契約の改訂では、契約の終了後1年間、甲を通じて知った元請先と直接又は間接に同種の業務の取引や勧誘をしない、元請先から直接依頼があったときは甲に通知する、と定めました。依頼者の意向で違約金は置かず、通知義務によって実効性を確保する形にしています。一人親方向けの契約書では、終了後2年間の直接取引の禁止と、1件あたりの上限を付けた違約金を組み合わせた例もあります。いずれも、禁止の期間と範囲が広すぎると職業選択の自由との関係で効力を争われるので、期間・相手方・業務の範囲を限定して書きます。
ヒヤリングと、起きがちなこと
ヒヤリング点検表 下請・一人親方
- 建設業の許可を受けているか。協力会社・職人は許可を受けているか。名宛人の入れ替わりと、再委託先の許可の確認の要否を決める。
- 取引のルートはいくつあるか(施主から直接、同業他社を経由など)。廃棄物・石綿の元請業者が誰になるかを整理する。
- 協力会社は法人か、従業員のいない個人か。フリーランス法の適用の有無と、支払期日の書き方が変わる。
- 現場で作業の方法や時間をどこまで指示しているか。指示の範囲の条項と、労働者性のリスクを判断する。
- 一括して任せている工事はあるか。施工計画や品質の確認に関与しているか。一括下請負の評価と、関与の記録の残し方を決める。
- 発注はチャット・メールか、書面か、電子契約か。下請契約に19条の書面を備えられているかを確かめる。
よくあるご質問
協力会社に「法令を守る」と書けば、元請の責任はなくなりますか?
なくなりません。建設業法・廃棄物処理法・大気汚染防止法・労働安全衛生法などで元請が名宛人となっている義務は、契約で協力会社に移せません。契約で移せるのは、協力会社の責めに帰すべき事由で元請が負担した賠償額や費用を求償するという、民事上の負担だけです。
下請契約書にも建設業法19条の記載事項は必要ですか?
必要です。19条1項は建設工事の請負契約の当事者すべてに及ぶので、元請と協力会社、協力会社と一人親方の間の契約にも、16の事項を記載した書面の相互交付が求められます。チャットやメールは、技術的基準を満たす電子的な方法でなければ書面に代わりません。
一人親方に現場で指示しすぎると、何が問題になりますか?
作業の方法・手順・時間まで指示すると、契約の名前にかかわらず労働者に当たると評価されるおそれがあります。建設業務は労働者派遣も禁止されています(労働者派遣法4条1項2号)。示せる指示を仕様・品質の基準・安全上の注意などに限り、方法・手順・時間配分は職人の裁量と明記します。
下請代金の支払期日は、何日まで延ばせますか?
元請負人は、出来形部分などの支払を受けた日から1か月以内に下請代金を支払う必要があり(建設業法24条の3第1項)、特定建設業者が注文者の一定の下請契約では引渡しの申出から50日以内の期日を定めます(24条の6)。従業員のいない個人に委託する場合は、フリーランス法により受領日から60日以内に定めます。
建設工事の下請取引に、取適法(旧下請法)は適用されますか?
取適法は、建設業を営む者が請け負う建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせることを「役務提供委託」の定義から除いています(同法2条4項)。建設工事の下請取引は建設業法で規律されます。一方、フリーランス法には建設工事を除く規定がありません。
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