解除・出来高精算・倒産・紛争解決

工事の解除は白紙に戻すことではありません。できあがった部分をどう引き継ぎ、いくら精算するかの問題です。

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柱書に「催告することなく」、1号に「催告したにもかかわらず」。同じ条の中の矛盾は、解除の場面で必ず争点になります。

このページの要点

  • 解除の条項は、条ごとに「誰が」「誰に何があったとき」解除できるかを確かめる。催告解除と無催告解除は条を分ける。
  • 出来高は単価×施工済み数量などの算定方法を定め、算定の通知・異議の期限・異議のない部分の先払いまで書く。
  • 注文者の任意解除(民法641条)は逸失利益を予定額で定め、破産(642条)は条文に沿って処理を書く。
  • 審査会の仲裁まで合意すると裁判所に訴えられなくなる。裁判所と並べるなら、あっせん・調停に限る。

結論:解除は「誰が・どんな手順で」、精算は「何を・どう数えて・いつ払う」まで書く

工事の途中で契約が終わる場面は、大きく三つあります。相手方の契約違反を理由に解除する場面、注文者が自分の都合で工事をやめる場面、当事者の一方が倒産する場面です。どの場面でも、工事はすでに一部できあがっており、資材も現場に搬入されています。だから工事の契約の解除は、契約を白紙に戻すことではなく、できあがった部分と搬入済みの資材をどう引き継ぎ、いくら精算するかという問題になります。

民法634条は、請負が仕事の完成前に解除されたときや、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったときに、請負人がすでにした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できると定めています。けれども「利益の割合」をどう数えるかは、条文からは決まりません。契約書で出来高の算定方法を決めておかなければ、解除の後に、出来高の評価をめぐってもう一度大きな争いが起きます。

このページでは、解除条項によくある書き間違い、催告解除と無催告解除の組み立て、出来高精算の算定と支払の手順、注文者の任意解除と倒産の処理、消費者向けの中途解約、紛争の解決方法を順に見ます。工事の中止が長引いた場合の解除は不可抗力・価格変動・工事の中止、支払遅延を理由とする催告は代金の支払設計でも扱っています。

解除条項によくある書き間違い

解除の条項は、契約書の中で最も「書き写し」が起きやすい箇所です。他の契約書の解除条項を持ってきて継ぎ足すうちに、柱書と各号の内容が矛盾したり、解除できる者と解除される者が入れ替わったりします。事務所がレビューした書面では、次のような例がありました。

REV.事務所の改訂例 解除条項の書き間違い

1柱書と号の矛盾

改訂前甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、催告することなく直ちに本契約を解除することができる。(1)本契約に違反し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず是正しないとき(2)…
改訂後催告による解除の条と、無催告解除の条を分ける。催告解除は「相当の期間(5営業日以上)を定めて催告し、その期間内に履行がないとき」、無催告解除は事由を限定して列挙する。

理由柱書が「催告することなく」、1号が「催告したにもかかわらず」で、同じ条の中で矛盾する。中間金の不払で解除しようとすると、「催告期間が経過していない」「無催告解除は1号には及ばない」と争われる。

2解除権者の取り違え

改訂前相手方に重大な虚偽報告その他の背信行為があった場合、相手方は催告なく直ちに本契約を解除することができる。
改訂後甲又は乙は、相手方に重大な虚偽報告その他の背信行為があったときは、催告なく直ちに本契約を解除することができる。

理由文言どおりに読むと、虚偽の報告をした側が解除できることになる。解除の条項は、条ごとに「誰が」「誰に何があったとき」解除できるのかを、主語を一つずつ数えて確かめる。

3予告期間の数え方

改訂前いずれの当事者も、1か月前までに予告することにより本契約を解約することができる。
改訂後いずれの当事者も、30日前までに書面等により予告することにより本契約を解約することができる。

理由「1か月前」は、2月に通知すると28日か29日にしかならない。相手方が従業員を使用しない個人で、委託する側が従業員を使用する事業者など同法の「特定業務委託事業者」に当たり、継続的な業務委託に当たるときは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)16条1項が少なくとも30日前の予告を求める。

反社会的勢力の排除の条項にも、注意が要ります。「反社会的勢力と何らかの関わりを持つ者」とだけ書くと、取引先の取引先まで含み得る広さになり、自社が解除される危険も同じ広さで生じます。反社会的勢力の定義、自社と相手方の表明と確約、該当したときの無催告解除、解除によって相手方に生じた損害を賠償しないこと、をそろえて書くのが基本です。

催告解除と無催告解除の組み立て

改修工事の改訂例では、催告による解除と催告によらない解除を別の条に分けました。催告による解除は、相手方が債務を履行しないときに、5営業日以上の期間を定めて催告し、その期間内に履行がないときに解除できるとし、期間経過時の不履行が取引上の社会通念に照らして軽微であるときは解除できない、と民法541条の考え方に合わせています。注文者の支払遅延については、支払の条項で定めた催告の手続を経れば足りる、と両条をつなげました。

条文例

第○条(催告によらない解除)

  1. 甲又は乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当したときは、何らの催告を要せず、直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。(1)支払を停止したとき、又は手形若しくは小切手が不渡りとなったとき(2)破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てを受け、又は自ら申し立てたとき(3)差押え、仮差押え、仮処分又は滞納処分を受けたとき(4)解散の決議をしたとき(5)監督官庁から営業停止その他の処分を受けたとき(6)本契約の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(7)その他本契約を継続し難い重大な背信行為があったとき
  2. 甲が本件建物の所有者でない場合において、所有者の承諾が得られないことにより工事を完成することができないときは、甲は本契約を解除することができる。この場合の精算は第○条(甲の任意解除)の定めを準用する。
  3. 甲乙いずれの責めにも帰することができない事由により工事を完成することができなくなったときは、甲又は乙は本契約を解除することができる。この場合、甲は第○条(出来高精算)に定める額を乙に支払う。

1項2号の倒産手続の申立てを解除事由とする定めについては、注意点があります。破産のように会社をたたむ手続とは違い、民事再生や会社更生のような再建型の手続では、申立てがあったことだけを理由に相手方が契約を解除できるとする特約は、手続の目的(事業を立て直すこと)を損なうとして効力が否定され得ると考えられています。この条項は相手方を縛るだけでなく、自社が再建型の手続を申し立てたときには、自社の側を守る方向にも働きます。条項を置く意味がないわけではありませんが、再建型の手続の場面では、それだけに頼った精算の設計にしないことが大切です。

出来高精算:何を数え、どう算定し、いつ払うか

工事の途中で解除されると、すでに施工した部分(出来形)と、加工した資材、搬入した資材、組み立てた仮設物が残ります。改訂例では、出来形と、組み込み済み・加工済みの資材は注文者に引き渡し、その対価として出来高を支払う、という形にしました。出来高は、単価のある項目は単価に施工済みの数量を乗じた額、単価がない項目は項目ごとの代金に進捗率を乗じた額とし、これに仮設・養生の費用と搬入済みの資材の代金を加えます。

出来高精算の手順(改訂例)

  1. 解除催告解除・無催告解除・任意解除・完成不能のいずれか。
  2. 出来形の確認乙が出来形・資材を写真と数量で記録し、甲に引き渡す。
  3. 算定と通知乙が出来高を算定して内訳とともに甲に通知する。
  4. 7日以内の異議甲は理由を示して異議を述べることができる。
  5. 30日以内の支払異議のない部分は、通知から30日以内に支払う。異議のある部分だけを協議する。

条文例

第○条(出来高精算)

  1. 本契約が工事の完成前に解除されたときは、乙は、出来形部分並びに工事に組み込み又は加工した工事材料を甲に引き渡し、甲は次項に定める出来高を乙に支払う。
  2. 出来高は、単価の定めのある項目については単価に施工済みの数量を乗じた額、単価の定めのない項目については当該項目の代金に進捗率を乗じた額とし、これに仮設及び養生に要した費用並びに工事現場に搬入した工事材料の代金を加えた額とする。
  3. 乙は出来高を算定して内訳とともに甲に通知し、甲は通知を受けた日から7日以内に限り理由を示して異議を述べることができる。甲は、異議を述べなかった部分の出来高を、通知を受けた日から30日以内に支払う。
  4. 工事現場の撤去及び後続の施工者への引継ぎに要する費用は、解除が乙の責めに帰すべき事由による場合を除き、甲の負担とする。

「異議のない部分は先に払う」という一文が要です。一部に異議があることを理由に、出来高の全額の支払が止まる事態を防ぎます。下請への支払や撤収の費用を出来高に含めて重ねて計上しないよう、費目の重なりも点検します。

出来高の算定で揉めないためには、契約時の見積書が項目と数量で組まれていることが前提になります。見積書が「内装工事一式」のような一式表示ばかりだと、単価×数量で数えることができず、進捗率の評価という主観的な争いに入り込みます。工事内容の特定(工事内容の特定と既存部分のリスク)は、解除の場面での精算の土台でもあります。

協力会社に工事を出す側の基本契約では、解除した後の措置も書いておきます。管理会社の基本契約の改訂では、解除権者を「甲又は乙は、相手方に次の事由が生じたときは」という形にそろえたうえで、解除後に、施工中の現場を甲又は甲の指定する者に引き継ぐこと、貸与した物品や預けた鍵を直ちに返還すること、出来高を精算すること、解除の事由が生じた当事者は相手方に対する債務について期限の利益を失うこと、を加えました。鍵の返還を書いておかないと、契約が終わった後も建物の鍵が協力会社の手元に残る、という管理上の問題が生じます。

注文者の任意解除と倒産

民法641条は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できると定めています。ここでの損害には、請負人がすでに支出した費用だけでなく、完成していれば得られたはずの利益も含まれると解されています。ただ、得られたはずの利益の額は、完成していない以上、立証が難しいものです。改訂例では、注文者の任意解除のときは、出来高に、回避できない手配の費用と撤去・引継ぎの費用を加え、さらに(請負代金額-出来高)の10分の1を逸失利益の予定額として支払う、と定めました。損害賠償の額の予定(民法420条1項)として定めることで、解除のたびに逸失利益の立証で争うことを避けられます。

注文者が破産した場合については、民法642条が定めています。注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は契約を解除でき(ただし請負人による解除は仕事の完成前に限られます。同条1項)、請負人は、すでにした仕事の報酬とその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入できます(同条2項)。解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が解除した場合における請負人に限って請求できます(同条3項)。改訂例では、この規定に沿って破産の場合の処理を書き、再建型の手続の場合は、相手方に契約を続けるのか解除するのかの選択を催告できる、という定めにしています。

終了の場面ごとの精算(改訂例)

終了の場面注文者が支払うもの根拠・注意点
請負人の債務不履行による解除出来高(引き渡された出来形・資材の対価)注文者の損害賠償請求とは別に整理する。撤去・引継ぎの費用は請負人の負担
注文者の債務不履行による解除出来高+撤去・引継ぎの費用+損害賠償支払遅延の催告の手続を経たうえで解除
注文者の任意解除出来高+回避できない手配の費用+撤去・引継ぎの費用+(請負代金額-出来高)×1/10民法641条。逸失利益を賠償額の予定として定める
貸主の承諾が得られない場合の解除任意解除と同じ注文者の側の事情として扱う
双方に責任のない完成不能出来高民法634条1号の考え方に沿う
注文者の破産既にした仕事の報酬と費用(配当に加入)民法642条。請負人の解除は完成前に限る

消費者向けの中途解約:違約金型ではなく実費積上げ型で

個人の施主との契約では、中途解約の精算に、消費者契約法9条1項1号の制約がかかります。同号は、契約の解除に伴う損害賠償の額の予定や違約金のうち、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効としています。「解約のときは請負代金の○割を違約金として支払う」という定め方は、この「平均的な損害」との比較で争われやすい書き方です。

墓石の建立工事の契約書では、違約金の割合を定める方式ではなく、実際にかかった費用を積み上げる方式にしました。中途解約の精算額を、出来形に相当する額、彫刻や加工に着手したことで他に転用できなくなった石材の材料費と加工費の全額、すでに発注・調達した費用(他に転用できるものは回収の見込額を差し引く)、現に負担している費用の合計とし、「転用できない」という算定の根拠を条文に書き込みました。精算金の支払と引換えに出来形は施主の所有になる、とも定めています。費目と算定根拠が条文に書かれていれば、精算額が平均的な損害の枠内であることを説明しやすくなります。

外構工事の契約書では、契約金・予約金の支払前、契約金の支払後、予約金の支払後で着工金の前、着工後、という段階ごとに精算の方法を分け、どの段階でも現に発生した費用の範囲で精算し、予約金を当然に没収することはしない、という形にしていました。訪問販売に当たる契約では、クーリング・オフの期間内であれば精算そのものを求められない点にも注意が要ります(リフォームの訪問販売とクーリング・オフ)。

紛争の解決方法:建設工事紛争審査会と裁判所の並べ方

建設業法19条1項15号は、契約に関する紛争の解決方法を記載事項にしています。建設工事の請負契約に関する紛争については、建設業法25条により建設工事紛争審査会が設置されており、あっせん、調停及び仲裁を行う権限を持っています(同条2項)。都道府県に置かれる都道府県審査会の管轄は、当事者の双方が当該都道府県の知事の許可を受けた建設業者であるときのほか、当事者の双方が許可を受けないで建設業を営む者である場合や、当事者の一方のみが許可を受けないで建設業を営む者である場合(相手方が建設業者であるときは、その許可をした行政庁に応じて管轄が決まるので除きます)で、紛争に係る建設工事の現場が当該都道府県の区域内にあるときにも及びます(25条の9第2項3号・4号)。当事者は合意によって管轄審査会を定めることもできます(同条3項)。

依頼者から「工事場所の裁判所と建設工事紛争審査会の両方で解決できるようにしたい」という要望を受けたことがあります。併記すること自体はできますが、審査会の手続に仲裁まで含めて合意すると、仲裁合意の対象となる紛争について裁判所に訴えを提起しても、被告の申立てにより訴えが却下されることになります(仲裁法14条1項)。裁判所と審査会を並べるなら、審査会の手続はあっせん・調停に限り、それで解決しないときは裁判所に訴えを提起できる、と書くのが一つの方法です。管轄の裁判所を工事現場の所在地にするか本店の所在地にするかは、現場と本店が離れているときに、出向く負担がどちらにかかるかで決めます。

なお、注文者が消費者の場合、事業者の所在地の裁判所を専属的な管轄とする定めは、消費者に一方的に不利な条項として効力を争われたり、訴訟の移送を求められたりするおそれがあります。消費者向けの契約書では、専属的な合意管轄を置かないか、置くとしても消費者の住所地や工事現場の所在地を管轄する裁判所とするほうが安定します。

ヒヤリングと、起きがちなこと

ヒヤリング点検表 解除・精算・紛争解決

  1. 見積書は項目と数量で組まれているか。単価表はあるか。出来高を単価×数量で算定できるかが決まる。
  2. 過去に、工事の途中で注文者からやめたいと言われたことはあるか。任意解除の精算と逸失利益の予定の要否を判断する。
  3. 注文者は建物の所有者か賃借人か。貸主の承諾が得られない場合の解除と精算を書く。
  4. 注文者は事業者か消費者か。中途解約の精算の方式と、管轄の定め方が変わる。
  5. 本店と工事現場は離れているか。審査会の利用を考えているか。紛争解決の条項の並べ方を決める。
  6. 原案や相手方から示された解除条項に、柱書と号の矛盾や主語の誤りがないか。条ごとに解除権者と事由を数えて確かめる。

よくあるご質問

施主が工事の途中で「やめる」と言いました。何を請求できますか?

民法641条により、注文者は完成前ならいつでも損害を賠償して解除できます。請負人は出来高に加え、損害(支出した費用や得られたはずの利益)を請求できます。契約書で出来高の算定方法と、逸失利益を(請負代金額-出来高)の一定割合とする予定を定めておけば、精算が速くなります。

工事の出来高精算は、どのように計算しますか?

契約書で定めておくのが前提です。単価のある項目は単価×施工済み数量、単価のない項目は項目代金×進捗率とし、仮設・養生の費用と搬入済み資材の代金を加える方法があります。算定を通知し、一定期間内に異議のない部分は先に支払う、という手順も定めておきます。

施主が倒産したら、工事代金はどうなりますか?

注文者が破産したときは、民法642条により請負人又は破産管財人が契約を解除でき(請負人の解除は完成前に限る)、請負人はすでにした仕事の報酬と費用について破産財団の配当に加入できます。再生や更生の手続では、契約を続けるか解除するかの選択の問題になります。

解除条項でよくある書き間違いは何ですか?

柱書が「催告することなく」なのに号に「催告したにもかかわらず」とある矛盾、違反した側が解除できるように読める主語の取り違え、「1か月前」の予告が2月に30日を下回ることなどです。解除の条項は、条ごとに誰が誰に何があったときに解除できるのかを確かめます。

建設工事紛争審査会とは何ですか?

建設工事の請負契約に関する紛争について、あっせん・調停・仲裁を行う機関で、国土交通省に中央審査会、都道府県に都道府県審査会が置かれています(建設業法25条)。仲裁まで合意すると同じ紛争について裁判所に訴えられなくなるため、裁判所と並べるならあっせん・調停に限る書き方があります。

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