このページの要点
- 施主の自宅で契約すれば訪問販売に当たり得る。「請求した者」の適用除外は、自宅での契約を明確に求めた場合に限られる。
- クーリング・オフがあれば、損害賠償・違約金の請求不可(9条3項)、対価の請求不可(5項)、受領金銭の返還(6項)、無償の原状回復(7項)。
- 書面が記載事項・記載方法を満たさないと期間が始まらない。「訪問販売ではないことの確認」条項では適用を避けられない。
- 訪問販売に当たり得る受注では、書面受領日から8日を経過するまで資材の発注と着工を控える。
結論:訪問販売に当たるかは事実で決まる。書面に不備があれば、工事が終わっていてもクーリング・オフされ得る
住宅のリフォームは、見積り、打合せ、契約を施主の自宅で行うことが多い仕事です。事業者の営業所等以外の場所で役務提供契約の申込みを受け、又は契約を締結すれば、特定商取引法の「訪問販売」(同法2条1項)に当たり、事業者は申込みや契約の内容を明らかにする書面を交付しなければならず(4条・5条)、施主にはクーリング・オフ(9条)が認められます。営業の電話や飛び込みの訪問をしていなくても、施主の自宅で契約すれば、それだけで訪問販売に当たり得ることが出発点です。
リフォームのクーリング・オフが他の取引と違うのは、工事という「元に戻すのが難しい役務」が対象になることです。書面に不備があればクーリング・オフの期間が始まらず、工事が終わった後でもクーリング・オフされ得ます。そのとき事業者は、施工した工事の対価を請求できず、施主の土地や建物の現状が変わっていれば、無償で元に戻すよう求められます。墓石の建立のように、据え付けた後の撤去に大きな費用がかかる工事では、最も重いリスクになります。
このページでは、クーリング・オフや書面の一般的な説明は最小限にとどめ、リフォームや工事に固有の論点、つまり訪問販売への当てはめ、工事後のクーリング・オフの帰結、書面の不備が工事に与える影響、着工と材料発注のタイミング、リフォームローンを使う場合に絞って整理します。支払時期とクーリング・オフ期間の関係は代金の支払設計でも扱っています。
訪問販売に当たる場面と、当たらない場面
水回りの設備交換を扱うリフォーム会社の契約書のレビューでは、クーリング・オフの条項が「本契約が特定商取引法の対象となる場合は、法令に従う」という仮定の形で書かれていました。訪問販売に当たるかどうかの検討がされないまま、当たる場合の手当てだけが一行で済まされている形です。しかし、訪問販売に当たれば、法令に従った書面を交付していなければその時点で問題が生じており、「法令に従う」と書くだけでは書面の不備は解消しません。事務所は、締結の場所と流れ、申込みと締結のタイミング、他の施工会社との契約関係、1件あたりの規模、個別クレジットの利用の有無などをヒヤリングで確かめたうえで、訪問販売に当たる前提の書面に組み替えました。
訪問販売への当てはめの考え方
| 場面 | 訪問販売に当たるか | 考え方 |
|---|---|---|
| 施主の自宅で見積りを示し、その場で契約した | 当たり得る | 営業所等以外の場所での契約。勧誘の方法は問わない |
| 施主から電話で修理を頼まれて訪問し、自宅で契約した | 当たり得る | 「請求した者」として適用除外になるのは、契約の申込み・締結の意思をあらかじめ持ち、自宅での契約を明確に求めた場合に限られる |
| チラシの安価な修理を頼まれて訪問したが、現地で高額の工事を提案して契約した | 当たり得る | 安価な修理の依頼は、高額な工事の契約を自宅で結ぶことの請求とはいえない |
| 見積りの依頼時に示した額と、現地で提示した額に大きな開きがある | 当たり得る | 同じ理由で、請求による適用除外に当たらない方向に働く |
| 施主が事務所に来店して契約した | 原則当たらない | 営業所等での契約。ただし路上で呼び止めて来店させた場合などは別 |
| 営業のために締結する契約(法人の注文者の多く) | 適用除外 | 特定商取引法26条1項1号。個人でも、賃貸事業用の建物の工事は原則として除外の方向 |
適用除外の「請求した者」は特定商取引法26条6項1号に定められています。自宅で契約したいと施主が明確に求めたかどうかは、後で争いになりやすいので、記録を残しておく必要があります。
契約書や約款に「本契約は訪問販売又は電話勧誘販売によるものではないことを確認する」という条項を置く書き方も見られます。しかし、訪問販売に当たるかどうかは契約の場所や経緯という事実で決まるもので、施主に確認の署名をもらっても、事実が訪問販売であれば特定商取引法の適用は変わりません。確認条項があることで、事業者の側が書面の交付やクーリング・オフへの対応は不要だと誤解してしまうおそれのほうが大きいと考えられます。
注文者の属性によっても結論が分かれます。注文者が法人であれば、消費者契約法は適用されず、工事の契約は通常は営業のために締結するものとして特定商取引法の適用も除外されます(同法26条1項1号)。個人であっても、賃貸事業用のビルの工事のように営業のために締結する契約であれば、原則として特定商取引法の適用は除外されます。自分が住む部分を含む建物の工事を個人が注文する場合は、消費者契約法の審査の対象になり、自宅などで契約すればクーリング・オフの対象にもなります。
交付する書面の組合せも、契約の流れによって変わります。営業所等以外の場所で申込みを受けたときは、直ちに申込みの内容を記載した書面(申込書面)を交付し(特定商取引法4条1項)、契約を締結したときは遅滞なく契約の内容を明らかにする書面(契約書面)を交付します(5条1項)。申込みを受けたその場で契約を締結した場合は、申込書面は要らず、直ちに契約書面を交付します(4条1項ただし書、5条1項)。リフォームでは、現地調査の日に申込書を受け取り、後日見積りを確定させて契約書を交わす、という二段の流れも多いので、どちらの書面をいつ渡したかを記録しておくことが、クーリング・オフの起算日を確かめる前提になります。申込書面を先に渡していれば、期間はその受領日から数えます。
施工を他の会社が行う場合も、書面の上で施主と契約しているのが誰なのかを明らかにします。水回りのリフォームの確認事項でも、商品の販売と施工を誰が担い、施主がどの会社と契約関係に立つのかを最初に確かめました。書面に記載すべき事業者の名称や住所、代表者、契約の担当者が施主の目から特定できなければ、クーリング・オフの通知の宛先も定まりません。
工事が終わった後のクーリング・オフで何が起きるか
クーリング・オフの期間は、施主が契約書面(特定商取引法5条1項又は2項の書面)を受領した日から起算して8日です。それより前に申込書面(4条1項の書面)を受領していれば、その受領日から数えます(9条1項ただし書)。逆にいえば、法定の書面を交付していなければ、あるいは交付した書面が記載事項を欠いていれば、期間は始まりません。工事が終わり、代金を受け取った後でも、施主はクーリング・オフができることになります。
クーリング・オフがあったときの効果(特定商取引法9条)
| 項 | 内容 | 工事で意味すること |
|---|---|---|
| 2項 | 書面又は電磁的記録による通知を発した時に効力を生じる | 通知が事業者に届く前でも、発信した時点で効力が生じる |
| 3項 | 事業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求できない | 解約料・キャンセル料・手配済み資材の費用を請求できない |
| 5項 | 役務が提供された後でも、役務の対価その他の金銭の支払を請求できない | 施工が終わっていても、工事代金を請求できない |
| 6項 | 役務提供契約に関連して受領した金銭は、速やかに返還しなければならない | 受け取った着手金・代金は全額返す |
| 7項 | 役務の提供に伴い土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、無償で原状回復に必要な措置を講ずることを請求できる | 取り付けた設備の撤去や、壊した部分の復旧を無償で行う |
| 8項 | 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは無効 | 「工事着手後はクーリング・オフできない」などの特約は無効 |
このように、工事後のクーリング・オフでは、事業者は代金を返し、工事の対価も請求できず、さらに無償で元に戻さなければなりません。役務の提供後のクーリング・オフでも対価は請求できず(9条5項)、工事について別扱いを認める規定はないので、クーリング・オフの欄に「法令上認められる場合を除き」のような留保を付けて、費用を請求できる余地があるかのように読める書き方をするのは避けます。
設備の交換を伴うリフォームでは、契約が「設備という商品の売買」と「取付けという役務の提供」の両方の性質を持つことがあります。商品の売買の部分についても、クーリング・オフがあったときは、すでに引き渡した商品の引取りに要する費用は販売業者の負担になり(9条4項)、施主が使っていた期間の使用による利益に相当する金銭も請求できません(同条5項)。新しい便器や給湯器を数か月使った後にクーリング・オフされても、使用料を差し引くことはできず、取り外して引き取る費用も事業者が負い、取り外しで生じた壁や床の傷みを直すことも無償の原状回復に含まれる、ということになります。
書面の不備は、工事の後まで尾を引く
訪問販売の書面には、法律と施行規則で定められた記載事項があり、クーリング・オフに関する事項は赤枠の中に赤字で記載する、文字の大きさは8ポイント以上にする、といった記載方法の定めもあります。記載事項や記載方法を満たさない書面は、法定の書面を受領したことにならず、クーリング・オフの期間が始まらない、という形で事業者に返ってきます。リフォームの契約書では、次の点を書面の上で確かめています。
- 契約書が特定商取引法5条の書面を兼ねることを、冒頭で宣言しているか。
- クーリング・オフの条項が、書面の内容を十分に読むよう促す一文とともに、赤枠・赤字で一体として記載されているか。
- 起算日を「契約書面を受領した日(それより前に申込書面を受領したときはその日)」と正しく書いているか。
- 通知の手段を書面に限定せず、電磁的記録(メールなど)による通知も認めているか(令和4年6月1日から)。
- 通知が発信した時に効力を生じること、損害賠償・違約金を請求しないこと、受領した金銭を返還すること、役務の対価を請求しないこと、無償で原状回復すること、を記載しているか。
- 事業者が不実のことを告げたり威迫したりしてクーリング・オフを妨げた場合は、改めて書面を受け取ってから8日を経過するまでクーリング・オフできることを記載しているか。
- 通知の宛先(事業者名、住所、メールアドレスなど)を記入する欄があるか。
墓石の建立工事の契約書を作り直したときは、依頼者がそれまで使っていた約款のクーリング・オフの条項に、通知の手段を書面に限っている、起算日が「申込書面と契約書面のいずれか早い方」と正確でない、無償の原状回復の記載がない、という点がありました。新しい契約書では、「法」を特定商取引法と定義したうえで、訪問販売の定義(2条1項)、書面の交付(4条・5条)、クーリング・オフ(9条)、適用除外(26条)など関係する条文を条項の中で明示し、契約書面を兼ねることを宣言し、クーリング・オフの条は赤枠・赤字で通知の宛先の記入欄を設けました。施主の請求によって来店した場合や、施主の求めで自宅で契約した場合の適用除外も、条文の中で明らかにしています。
消費者向けで特定商取引法の対象になる契約では、契約書の形式そのものにも工夫が要ります。表紙に工事名・金額・工期などを一覧で書く「頭書」と、細かな約款を組み合わせた形式は、法定の記載事項が頭書と約款に分散し、どこに何が書いてあるかが分かりにくくなります。墓石の契約書では、記入線を使って法定の記載事項を条文の中に織り込む「契約書面・法定様式反映版」の形式で組み直しました。
着工と材料の発注は、8日を過ぎてから
書面を正しく交付していても、クーリング・オフの期間中に着工したり、施主専用の材料を発注したりすれば、その期間内にクーリング・オフされたときの費用は事業者の負担になります。損害賠償や違約金は請求できず(9条3項)、役務の対価も請求できず(同条5項)、現状を変えていれば無償で元に戻さなければならない(同条7項)からです。墓石の建立工事のレビューでは、訪問販売に当たり得る経緯で受注したときは、書面の交付日から8日を経過するまでは資材の発注と着工をしない運用を、依頼者に提案しました。
訪問販売に当たり得る受注の後の流れ(運用例)
- 契約・書面交付契約書面(法定の記載事項と赤枠のクーリング・オフ欄)を交付し、受領日を記録する。
- 8日間クーリング・オフの期間。資材の発注・着工はしない。現地の採寸や打合せにとどめる。
- 9日目以降クーリング・オフの通知がないことを確認して、資材を発注し着工する。
- 代金の受領引渡し後で、かつ書面受領日から9日を経過した後を支払期日の既定値にする。
施主の側から「すぐに工事してほしい」と求められることもあります。雨漏りの応急処置のように急を要する場合でも、クーリング・オフの権利そのものはなくなりません。早く着工するなら、その間にクーリング・オフされたときの負担は事業者が負うことを理解したうえで判断することになります。また、施主に「クーリング・オフはしない」と書いてもらう特約は、9条8項により無効です。支払時期の定め方は、代金の支払設計で触れたとおり、全額の支払期限がクーリング・オフの期間より先に来ないようにしておきます。
リフォームローン(個別クレジット)を使う場合と、追加工事
施主がリフォームの代金を、信販会社の個別クレジット(工事ごとに組むリフォームローン)で支払う場合は、割賦販売法の規律も加わります。訪問販売などで個別クレジットを利用した契約については、割賦販売法35条の3の10以下に、クレジット契約についてのクーリング・オフと、既払金の返還などの規律が置かれています。個別クレジットを使うかどうかは、ヒヤリングで必ず確かめる事項です。
工事の途中で施主から追加の工事を頼まれ、自宅で追加の見積りを示してその場で契約した場合、その追加の契約も、それ自体が営業所等以外の場所での契約として訪問販売に当たり得ます。追加工事の変更書面に法定の記載事項とクーリング・オフの事項を備えるかどうかを、追加の契約を結ぶ場所と経緯から判断しておく必要があります(追加・変更工事の書面)。消費者向けの契約で免責や期間の制限をどこまで書けるかは、工事の契約不適合責任で扱っています。
ご相談と回答 リフォームのクーリング・オフ
お客様から電話で依頼されて訪問し、自宅で契約しました。クーリング・オフはありますか。
「請求した者」として適用除外になるのは、施主が契約の申込み・締結の意思をあらかじめ持ち、自宅での契約を明確に求めた場合に限られます。修理や見積りを頼まれて訪問し、現地で工事を提案して契約したような場合は、訪問販売としてクーリング・オフの対象になり得ます。
工事が終わった後にクーリング・オフの通知が来ました。
書面を受領した日から8日を経過していれば、クーリング・オフはできません。書面を交付していない、又は記載事項に不備がある場合は、期間が始まっていないため、工事後でもクーリング・オフが認められ得ます。その場合、代金の返還、対価の不請求、無償の原状回復が求められます。
赤枠はなぜ必要なのですか。
クーリング・オフに関する事項は、赤枠の中に赤字で記載するなど、施行規則で記載方法が定められています。方法を満たさない書面は法定の書面を受領したことにならず、クーリング・オフの期間が始まらないおそれがあります。
ヒヤリングと、起きがちなこと
ヒヤリング点検表 訪問販売・クーリング・オフ
- 見積り・打合せ・契約は、どこで行っているか(施主の自宅、事務所、ショールーム)。訪問販売に当たるかの判断の出発点。
- 施主からの最初の依頼はどんな内容で、提示した工事の内容・金額とどれだけ違うか。「請求した者」の適用除外に当たるかを判断する。
- 申込みと契約の締結は同じ日か。申込書と契約書を別に渡しているか。クーリング・オフの起算日と、交付すべき書面を決める。
- 施工は自社で行うか、メーカーや他の施工会社が行うか。書面に記載する事業者と、施主との契約関係を確かめる。
- 個別クレジット(リフォームローン)を使うことはあるか。割賦販売法のクーリング・オフ・既払金返還の規律を確認する。
- 契約から着工までの日数と、資材を発注するタイミングは。8日経過前の着工・発注の運用を見直す。
よくあるご質問
リフォームの契約にクーリング・オフはありますか?
施主の自宅など事業者の営業所等以外の場所で契約すれば、特定商取引法の訪問販売に当たり、契約書面を受領した日から8日間はクーリング・オフができます(9条1項)。営業のために締結する契約(法人が注文者となる工事の多く)は適用除外です(26条1項1号)。
お客様から電話で依頼されて訪問した場合も、クーリング・オフの対象ですか?
適用除外になる「請求した者」(特定商取引法26条6項1号)は、契約の申込み・締結の意思をあらかじめ持ち、自宅での契約を明確に求めた場合に限られます。修理や見積りを頼まれて訪問し、現地で工事を提案して契約した場合は、対象になり得ます。
工事が終わった後でも、クーリング・オフされることはありますか?
法定の書面を交付していない、又は記載事項・記載方法に不備がある場合は、クーリング・オフの期間が始まらないため、工事後でもクーリング・オフされ得ます。事業者は受領した金銭を返還し(9条6項)、工事の対価を請求できず(同条5項)、無償で原状回復しなければなりません(同条7項)。
クーリング・オフ期間中に着工してもよいですか?
法律上禁止されてはいませんが、期間内にクーリング・オフされると、損害賠償・違約金は請求できず(9条3項)、工事の対価も請求できず(同条5項)、無償で原状回復しなければなりません(同条7項)。訪問販売に当たり得る受注では、書面受領日から8日を経過するまで資材の発注と着工を控える運用が安全です。
リフォームローンを使う場合、何に注意すればよいですか?
訪問販売などで個別クレジットを利用した場合は、割賦販売法35条の3の10以下に、クレジット契約についてのクーリング・オフや既払金の返還などの規律があります。ローンの利用の有無を契約前に確かめ、販売契約とクレジット契約の両方の手当てを確認します。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、工事の内容や取引の実態によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた建設工事請負契約書、リフォーム工事請負契約書、特定商取引法の契約書面、協力会社向けの基本業務委託契約書、一人親方との工事請負契約書、施工管理の業務委託契約書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索