不可抗力・価格変動・工事の中止

台風、値上がり、施主の都合による中止。起きたら誰がいくら負担するかを、算定方法まで決めておきます。

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建設業法20条の2第3項の協議は「第十九条第一項第七号又は第八号の定めに従つた」協議です。契約書に定めがなければ、よりどころがありません。

このページの要点

  • 不可抗力の効果は工期延長だけでなく、善管注意を尽くした出来形・搬入資材・仮設物の損害の負担と算定方法まで書く。
  • 建設業者は契約前に資材高騰等のおそれを書面で通知し、契約後に契約の定めに従った協議を申し出られる。許可のない請負人は契約の定めだけが頼り。
  • 注文者の申出による延期・中止は、現場維持・待機・解約・再開などの費目と、協議不調時の帰結、長期化したときの解除を書く。
  • 危険負担は引渡しの前後で切り替え、不可抗力の条項と同じ考え方でそろえる。

結論:不可抗力・値上がり・中止は「起きたら誰がいくら負担するか」を、算定方法まで決めておく

台風で足場が飛ばされた、豪雨で現場が浸水した、地震で既存の躯体が傷んだ、資材が急に値上がりした、施主の都合で工事が止まった。工事の現場では、請負人にも注文者にも責任のない事情で費用が増えたり、工事が進まなくなったりすることが避けられません。建設業法19条1項は、6号で当事者の一方から設計変更・着手延期・中止の申出があった場合の工期の変更、代金の変更又は損害の負担とその額の算定方法、7号で天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担とその額の算定方法、8号で価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は代金の変更とその額の算定方法を、記載事項としています。

事務所がレビューした改修工事の草案では、不可抗力の効果が工期の延長と費用増の負担だけで、出来形や搬入済みの資材、仮設物が壊れたときの負担がありませんでした。価格変動の条項はまったくなく、注文者の申出による着手の延期や中止の負担と算定方法も書かれていませんでした。このページでは、不可抗力、価格変動(令和6年改正の内容を含む)、注文者の申出による延期・中止、発注する側から見た中止の条項、危険負担を順に見ます。19条全体の点検は建設業法19条の記載事項で扱っています。

不可抗力:出来形・搬入資材・仮設物の損害まで決める

不可抗力の条項がない、あるいは工期の延長しか書いていない場合、引渡し前に出来形が滅失・損傷したときは民法の原則に戻ります。請負は仕事の完成を約束する契約なので、完成前に出来形が壊れても、完成させることがまだ可能であれば、請負人は改めて施工して完成させる義務を負い、そのやり直しの費用は請負人が負担する方向に働きます。足場の飛散や浸水による損害を、請負人がすべてかぶることになりかねません。民間工事で広く使われている標準的な約款では、請負人が善良な管理者の注意を尽くしていた部分の不可抗力による損害は注文者の負担とする考え方がとられています。

条文例

第○条(不可抗力)

  1. 本契約において「不可抗力」とは、天災地変、暴風、豪雨、洪水、地震、火災、感染症の流行及びこれに伴う行政機関の要請、争議行為、法令の制定又は改廃、主要な工事材料の著しい供給不足その他甲乙いずれの責めにも帰することができない事由をいう。
  2. 不可抗力により工期内に工事を完成することができないときは、乙は甲に工期の延長を求めることができる。この場合、乙は履行遅滞の責任を負わない。
  3. 不可抗力により、出来形部分、工事現場に搬入した工事材料又は仮設物に損害が生じたときは、乙が善良な管理者の注意をもって管理していたものに限り、その損害は甲の負担とする。不可抗力により増加した費用についても同様とする。
  4. 前項の額は、単価又は乙の見積額を基礎として甲乙協議して定め、協議が整わないときは乙が証拠により証明した額とする。乙が受領した保険金は、甲の負担額に充当する。

感染症と行政の要請、主要資材の供給不足を不可抗力の定義に入れるかは、工事の性質と当事者の立場で判断します。発注する側の契約書では範囲を狭く書くこともあります。

不可抗力の定義を広げるか狭めるかは、立場によって正反対になります。請負人の立場では、感染症の流行とそれに伴う行政の要請(作業員の確保や現場の閉鎖に直結します)、争議行為、法令の制定・改廃(工法や規制の変更)、主要な資材の著しい供給不足を定義に入れておくと、工期の延長や費用負担の根拠が明確になります。一方で、注文者や、協力会社に発注する側の立場では、定義を天災地変などに限り、資材の供給不足は価格変動や工期延長の条項で個別に扱う、という書き方もあります。どちらの場合も、「その他甲乙いずれの責めにも帰することができない事由」という受け皿を置くかどうかで、定義の広さが大きく変わります。

消費者向けの契約では、不可抗力の損害の配分にも配慮が要ります。墓石の建立工事の契約書では、請負人が善良な管理者の注意を尽くしていた部分の不可抗力による損害について、請負代金額の10分の1を超える部分を注文者の負担とする配分にしました。業界の標準的な配分を参考にしたものですが、消費者との契約では、注文者に負担させる部分が消費者契約法10条との関係で争われる余地があることを、報告書の中で依頼者に伝えています。

価格変動:令和6年改正で「算定方法」の定めが要になった

資材価格の高騰が続くなか、令和6年の建設業法の改正では、価格変動に関する規律が整えられました。19条1項8号は、価格等の変動又は変更に基づく工事内容の変更又は請負代金の額の変更及び「その額の算定方法」に関する定めを、記載事項としています。そのうえで20条の2第2項は、建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少、資材の価格の高騰その他の工期又は請負代金の額に影響を及ぼすものとして国土交通省令で定める事象が発生するおそれがあると認めるときは、契約を締結するまでに、注文者に対してその旨を事象の状況の把握のため必要な情報と併せて通知しなければならないと定めています。

省令で定める事象は、天災その他不可抗力により生じる、主要な資機材の供給の不足若しくは遅延又は資機材の価格の高騰と、特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰です(建設業法施行規則13条の16第2項)。通知は、見積書を作成するときは情報を記載した書面を見積書に添付して、作成しないときは情報を記載した書面を交付して行います(同規則13条の17第2項)。

省令の文言で注意したいのは、通知の対象となる事象が「天災その他不可抗力により生じるもの」に限られていることです。つまり、建設業法上の通知義務と協議の申出の仕組みが想定しているのは、不可抗力によって生じる資材や労務の不足・高騰です。契約書の8号の定めは、これより広く、予期できない経済事情の変動による価格の変動全般を対象にすることができます。法律の仕組みに頼るだけでなく、契約書の定めで対象を決めておく意味はここにもあります。

通知をした建設業者は、契約の締結後に通知した事象が発生した場合、注文者に対して、「第十九条第一項第七号又は第八号の定めに従つた」工期の変更、工事内容の変更又は請負代金の額の変更についての協議を申し出ることができます(20条の2第3項)。協議の申出を受けた注文者は、申出が根拠を欠く場合その他正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずるよう努めなければなりません(同条4項)。ここで注意したいのは、協議の申出が契約書の7号・8号の「定めに従つた」ものとして組まれていることです。契約書に8号の定めがなければ、協議を申し出るときのよりどころとなる定めがありません。

価格変動への備えの流れ(建設業者の場合)

  1. 契約前おそれのある事象と状況把握に必要な情報を書面で注文者に通知(見積書に添付)。20条の2第2項、規則13条の17第2項。
  2. 契約書19条1項8号の定めを置く。変動の内容と影響の示し方、協議の期間、協議不調時の帰結まで書く。
  3. 契約後に事象が発生契約書の定めに従った代金・工期・工事内容の変更の協議を申し出る。20条の2第3項。
  4. 注文者の対応正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応ずる努力義務。20条の2第4項。

20条の2第2項から4項の主語は「建設業者」です。許可を受けていない請負人には直接適用されないので、価格変動への備えは契約書の8号の定めだけが頼りになります。

条文例

第○条(価格変動による請負代金額の変更)

  1. 工期内に、予期することのできない経済事情の変動により工事材料の価格又は労務費が著しく変動し、請負代金額が著しく不相当となったときは、乙は、変動の内容とその影響を示して、甲に請負代金額の変更を申し出ることができる。
  2. 甲は、前項の申出があったときは、正当な理由がない限り誠実に協議に応じる。申出の日から14日以内に協議が整わないときは、乙が証拠により証明した増加費用の額を請負代金額に加算する。
  3. 甲は、前項の加算に異議があるときは、第○条(紛争の解決)の定めにより解決を求めることができる。
  4. 前三項の規定は、乙の責めに帰することができない事由により工期が延長された場合において、延長された期間に生じた価格の変動についても適用する。

協議不調時に増加費用を加算する帰結を置きつつ、注文者に異議の道を残しています。協議の定めと「自動で増額する」定めが同じ条文の中で矛盾しないように、順序を整理しておきます。

価格変動の申出が通るかどうかは、変動の内容と影響をどれだけ具体的に示せるかにかかっています。契約の時点で、主要な資材の単価と数量を見積書の内訳に書いておき、変動を示す資料として、仕入先からの値上げの通知、取引の伝票、公表されている物価の資料などを用いることを想定しておくと、申出の場面で「どの資材が、いつ、どれだけ上がり、請負代金にどう響くか」を示しやすくなります。見積書の内訳が一式表示ばかりだと、変動の影響を切り分けることができません。建設業法20条1項は、建設業者に、工事の種別ごとの材料費や労務費などの内訳を記載した見積書を作成するよう努めることを求めており、内訳の整った見積書は価格変動の協議の土台にもなります。

注文者の申出による延期・中止:改修工事では現実に起こる

改修工事では、テナントの退去が遅れて着工できない、注文者の資金の都合で工事を止めたい、上階や近隣から苦情が出て工事を中断せざるを得ない、といった事情が実際に起こります。このとき請負人には、現場を維持する費用、養生や警備の費用、手配済みの資材や職人の解約・待機の費用、下請への支払、再開のための費用などが生じます。6号の定めがないと、これらの負担が決まりません。

REV.事務所の改訂例 注文者の申出による延期・中止

1申出の手続

改訂前(定めなし)
改訂後甲は、書面等により着手の延期又は工事の中止を申し出ることができ、相当の理由があるときは乙はこれに応じる。

理由注文者の申出権を明記し、申出の方法を定める。

2費用の負担

改訂前(定めなし)
改訂後甲の申出、甲の責めに帰すべき事由、貸主やテナントの事情その他乙の責めに帰することができない事由による延期・中止のときは、工期を延長し、現場の維持、養生・警備、手配済み資材・労務の解約・待機、下請負人への負担、再開に要する費用その他乙に生じた損害を甲の負担とする。

理由費目を列挙して請求の根拠を明確にする。

3算定方法

改訂前(定めなし)
改訂後額は乙が内訳を示して協議し、協議が整わないときは乙が証拠により証明した額とする。

理由6号の「額の算定方法」に応える。

4長期化したとき

改訂前(定めなし)
改訂後中止の期間が30日を超えたとき、又は工事の完成が困難となったときは、乙は本契約を解除することができる。この場合の精算は、甲の任意解除の場合の定めを準用する。

理由中止が続く間、請負人が契約に縛られ続けないようにする。

請負人が工事の一部を協力会社に出している場合は、注文者との契約の中止条項と、協力会社との契約の中止条項をそろえておくことも大切です。注文者から中止を求められても、協力会社との契約に中止の定めがなければ、請負人は協力会社に対して工事を止める根拠を持てず、協力会社の待機の費用や逸失利益を請負人がそのまま負担することになりかねません。注文者との契約で「下請負人への負担」を注文者の負担に含め、協力会社との契約では「元請先の申出により工事が中止されたときは、この契約の工事も中止できる」と定めておけば、中止の影響が上流から下流まで同じ考え方で処理されます。

発注する側から見た中止の条項

建物の管理会社などが、協力会社に修繕や原状回復を発注する立場では、中止の条項を逆の方向から組み立てます。たとえば、管理会社が建物の所有者から受けている管理の契約が終了すれば、協力会社に発注していた工事も止めざるを得ません。発注する側の基本契約の改訂では、甲(発注者)はいつでも個別の工事を中止できる、元請先との契約の終了も中止の事由になる、精算は出来高(可分な給付によって甲が利益を受ける割合)と、やむを得ない実費(発注済みの材料のキャンセル料など)に限り、逸失利益は支払わない、と定めました。

民法641条は、請負人が仕事を完成しない間は、注文者はいつでも損害を賠償して契約を解除できると定めており、この損害には請負人が得られたはずの利益(逸失利益)も含まれると解されています。発注する側の契約書で逸失利益を外したいなら、契約書でそのように定めておく必要があります。一方で、精算を出来高と実費に限るとしても、出来高や実費まで払わないという扱いは相手方にとって酷であり、相手方が従業員を使用しない個人の事業者である場合には、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の規律との関係も意識した書き方が求められます。出来高の算定方法は解除・出来高精算と紛争解決で詳しく扱います。

中止の期間中に現場を誰が管理するかも、あわせて決めておきます。工事が止まっていても、足場や仮囲い、搬入済みの資材は現場に残ります。中止の間も請負人が管理を続けるなら、その管理の費用は中止に伴う費用として注文者に請求できる形にし、注文者の判断で仮設物を撤去して現場を引き揚げる場合は、撤去と再設置の費用を注文者の負担とします。管理の主体が曖昧なまま中止が長引くと、その間に資材が盗まれたり、仮設物が風で倒れたりしたときの責任の所在で、もう一度争うことになります。

危険負担:引渡しの前後で負担者を切り替える

危険負担とは、当事者のどちらの責任でもない事情で目的物が滅失・損傷したとき、その損失を誰が負うかという問題です。改修工事の改訂例では、引渡し前の滅失・損傷は、不可抗力による損害として注文者の負担とした部分(善管注意を尽くしていた出来形・資材・仮設物)と、注文者の責めに帰すべき事由によるものを除いて請負人の負担、引渡し後の滅失・損傷は、請負人の責めに帰すべき事由によるものを除いて注文者の負担としました。不可抗力の条項と危険負担の条項が別々の考え方で書かれていると、同じ事故について二つの条項が違う答えを出してしまうので、危険負担の条項から不可抗力の条項を引用する形で整合させています。引渡しの時点をはっきりさせる方法は検査・引渡し・竣工払で扱っています。

ご相談と回答 不可抗力・価格変動・中止

資材が値上がりしたら、代金を上げられますか。

契約書に19条1項8号の価格変動の定めがあれば、それに従って変更を申し出ます。建設業者は、契約前におそれのある事象を書面で通知しておけば、契約後に20条の2第3項の協議を申し出ることができます。定めがなければ、注文者との合意によるほかありません。

施主の都合で工事が止まっている間の費用は請求できますか。

6号の定めとして、注文者の申出による延期・中止のときの費用負担と算定方法を書いておけば請求の根拠になります。現場の維持、養生・警備、資材・労務の解約・待機、再開の費用などを列挙し、協議不調時の帰結まで書きます。

台風で足場が倒れたら、誰の負担になりますか。

契約に定めがなければ民法の原則に戻り、完成させる義務が残る請負人の負担になる方向に働きます。善管注意を尽くしていた出来形・資材・仮設物の不可抗力による損害は注文者の負担とする、という定めを置いておくのが一般的です。

ヒヤリングと、起きがちなこと

ヒヤリング点検表 不可抗力・価格変動・中止

  1. 建設業の許可を受けているか。20条の2第2項〜4項の通知・協議の規律が使えるかが決まる。
  2. 工期の長さと、価格の動きやすい主要資材は何か。価格変動の条項の対象と、協議の期間を決める。
  3. 契約前に、資材の値上がりのおそれを書面で伝えているか。建設業者の通知義務と、協議の申出の前提を確認する。
  4. 注文者側の事情(テナントの退去、資金、近隣)で工事が止まるおそれはあるか。延期・中止の費用負担の費目と、解除できる期間を決める。
  5. 発注する側として、元請先との契約が終わったら工事を止めることがあるか。中止の事由と精算の範囲を決める。
  6. 加入している保険で、不可抗力による損害がどこまで補填されるか。保険金の充当の定めを置く。

よくあるご質問

資材が値上がりしたら、工事代金を上げられますか?

契約書に建設業法19条1項8号の価格変動の定めがあれば、それに従って変更を申し出ます。建設業者は、契約前に資材高騰などのおそれを書面で通知しておけば、契約後にその事象が発生したとき、契約の7号・8号の定めに従った代金変更の協議を申し出ることができます(20条の2第2項・第3項)。

価格変動の条項には何を書けばよいですか?

変動の内容と影響を示して申し出る手続、注文者が誠実に協議に応じること、一定期間内に協議が整わないときの帰結(証明した増加費用を加算するなど)、それに対する異議の道、請負人の責めに帰さない工期延長中の変動にも適用することを書きます。8号は「算定方法」まで求めています。

台風で足場が倒れたり、現場が浸水したりしたら誰の負担ですか?

定めがなければ民法の原則に戻り、完成させる義務が残る請負人の負担になる方向に働きます。請負人が善管注意を尽くしていた出来形・搬入資材・仮設物の不可抗力による損害は注文者の負担とし、額は協議、協議不調時は請負人の証明額とする条項を置いておくのが一般的です。

施主の都合で工事が中断している間の費用は請求できますか?

注文者の申出による延期・中止の費用負担と算定方法(19条1項6号)を契約書に定めておけば請求できます。現場の維持、養生・警備、手配済み資材や労務の解約・待機、下請への負担、再開の費用などを列挙し、中止が長引いたときの解除権も置いておきます。

許可を持っていない請負人も、建設業法20条の2の協議を申し出られますか?

20条の2第2項から第4項の主語は「建設業者」(許可を受けた者)なので、許可を受けていない請負人には直接適用されません。価格変動への備えは、契約書に置いた8号の定めだけが頼りになります。

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